ウエイトリフティング女子71キロ級、蓑田天さんがインターハイで優勝!
更新日:2024年4月17日
全国高等学校総合体育大会で優勝した蓑田さん(左端)
駅の階段から転がり落ちて車いす生活に。復活からの頂点
松戸市出身・在住で埼玉栄高等学校に在学中の蓑田 天(みのだそら)さんが、2023年8月に北海道で行われた全国高等学校総合体育大会(以下「インターハイ」)のウエイトリフティング(重量挙げ)女子71キロ級で優勝しました。大会半年前に駅の階段から転がり落ち、車いす生活を余儀なくされました。医師からは「完治するかわからない」と診断され、苦悩の日々を過ごしながらも懸命にトレーニングに励み、見事大復活で頂点に。優勝までの道のりと今後の目標についてお話を伺いました。
※この記事の情報は、2024年4月現在のものです。
有言実行で掴んだ優勝
これまで成功したことのない91キロに挑んだクリーン&ジャーク(注釈1)の3回目。頭上に持ち上げた瞬間、体がぶれそうになりながらも体勢を保ち、自己ベストを更新しインターハイ初出場にして優勝を飾った蓑田さん。その時の率直な想いを聞くと「北海道に向かう当日の朝、母に『1位獲ってきます』と伝えて家を出たので、有言実行できて良かったです」と自信に満ち溢れた笑顔で答えてくれました。
(注釈1)ウエイトリフティングの試合では、各選手が「スナッチ」と「クリーン&ジャーク」の2種目を3回ずつ行い、3回行ったうちの成功した最高重量を合計した成績で順位を競う。
「スナッチ」:両手でバーベルを握り、一気に頭上まで持ち上げて立ち上がる。
「クリーン&ジャーク」:プラットフォーム(床)からいったん鎖骨の位置までバーベルを持ち上げ(クリーン)、次の動作で頭上に差し上げる(ジャーク)。
蓑田 天さん
蓑田さんは松戸市立松飛台小学校、松戸市立牧野原中学校を卒業し、埼玉栄高等学校に進学。中学時代はテニス部に所属していたという蓑田さんですが、その頃の握力は54キログラムと桁外れでした。「テニス以外に、何か自分にピッタリの競技があるのではないか」と思い、いろいろ調べる中でレスリングに辿り着いた蓑田さんは、レスリング部に入部するため埼玉栄高等学校に進学します。高校入学前にレスリング部の見学に行った際、偶然開催されていたウエイトリフティングの試合を目にして「かっこいい!」と思い、レスリング部から一転、ウエイトリフティング部への入部を決意しました。
「トレーニングが本当に楽しく、負けた時はとても悔しい(蓑田さん)」。テニス以外にもさまざまなスポーツに触れてきた蓑田さんが「初めて泣いた競技です」と話すほど、すぐさまウエイトリフティングにのめり込んでいきました。そんなウエイトリフティングの魅力を聞くと「ウエイトは努力がみえるのが楽しい。フォームが変わると結果に直に跳ね返り、すぐに体感できる。そこが自分に合ってるのかもしれない」とウエイトリフティングにのめりこんだ理由を話します。また「力が強いと競技に適していると思われがちだけど、逆に不利だと思います。バーベルをスッと持ち上げる感覚が大切。いかに力を抜くか」と驚きのコツも教えてくれました。
トレーニングに夢中になり、みるみるうちに実力をつけていった蓑田さん。入部直後の関東大会で3位に入るなど、すぐに頭角を現します。
不運の大事故に見舞われる
インタビューに答える蓑田さん
順調な競技人生を送り始めた最中、突如不運に見舞われます。インターハイ優勝から遡ること半年。2月に駅の階段から転がり落ちるという大事故に遭いました。もともと腰に痛みがあり、他に大きな自覚症状もなかったため、部活の友人たちと一緒に学校に戻ったそうです。「遠くでサイレンが聞こえたので、もしかしたら私のために誰かが救急車を呼んでくれたのかと思いましたが、とりあえず学校に戻りました。顧問に伝えたところ『救急車をすぐに呼ぶべきだ』と言われたので、改めて救急車で搬送され、精密検査を受けました」。検査結果は、骨折もなく、治療することもないので帰ろうとした時、右足首から下の感覚がないことに気が付きます。再度医師に診てもらうも「神経が戻るか戻らないかはわからない」と告げられ、検査入院をすることになりました。
退院後、初めは松葉杖をついていたそうですが、車いすに変えての生活が始まりました。しかし、そこでも前向きな蓑田さんは健在。「車いす生活になり、不便にもなるし、ふさぎ込んで学校も行けないんじゃないかしら(母・まゆみさん)」と家族が心配する中、自ら駅員や周りの人たちに相談し、車いすでのルートなどを確保し登校する日々が続きました。
競技仲間や両親の支え
持ち前の明るさで日々を過ごす蓑田さんでしたが、「『このままもうウエイトの世界に戻れないかもしれない』と、気持ちが折れそうになりました」と話すように、日が経つごとに不安が押し寄せます。「寝る前に、『朝起きたら立てるようにならないかな』って毎日考えてました」と当時の気持ちを話してくれました。痛くもないのに、歩くことができない。練習することもできず「筋肉が落ちていくのがわかるし、周りに置いていかれると思うと焦る(蓑田さん)」気持ちを紛らわせるかのように、男子用の20キログラム用シャフトを上げるなど上半身のトレーニングだけをして過ごしていたそうです。
そんな不安な日々を過ごす中で心の支えになったのは、両親はもちろん、友人からの励ましだったと教えてくれました。誰に対してもオープンに話すことができる蓑田さんは、その性格もあり、大会や合宿で出会った仲間たちともすぐに打ち解け、全国各地に友人がいるそうです。蓑田さんの不運を聞いた仲間や応援してくれる方たちから「励ましの連絡だったり、手紙や差し入れがいっぱい届いて。周りからの期待のおかげで、頑張ることができました」と嬉しそうに話してくれました。
奇跡の回復からの復活
事故に遭ってからおよそ1カ月後の3月7日、「急に足にビリビリと電気が走った感じがして、初めは嫌な予感がしたんですけど、立ち上がったらすっと歩けたんです!(蓑田さん)」「(天さんに)呼ばれて、どうしたのかと見に行ったら、さっきまで歩けなかったのに飛び跳ねていて(母・まゆみさん)」と、突然感覚が戻ったその瞬間を、2人揃って興奮気味に話してくれました。「嬉しくて思わず叫びました」と話す蓑田さんからは、満面の笑みがこぼれていました。突然の回復を聞いた医師からは“奇跡の人”と呼ばれたそうです。
もともと「3月10日までに立てなかったら(全国選抜を)棄権すると決めていました」という蓑田さんは、そこからすぐに練習を再開し、驚異的な回復をみせ2週間後の大会に出場することができました。
そんな中、インターハイ直前の7月に開催された「全国高等学校女子ウエイトリフティング競技会」では、クリーン&ジャークでは1位でしたが、スナッチで失格をしてしまいます。「この失格になってしまった大会が、逆にインターハイへの自信になったのかもしれない」と話す蓑田さんに当時の話を聞くと、「たくさんの仲間が一緒に泣いてくれたんです」と教えてくれました。「仲間が応援してくれたことが本当に嬉しくて、頑張ろうと思えました。とっても心強かったです」と仲間の存在の大きさを改めて感じ、心の支えとなったそうです。
苦悩の日々を乗り越えインターハイに臨んだ蓑田さん。大会前にインターハイの予選順位が出た時点で「優勝できるかも」と思ったそうです。実際優勝を果たした時は、それまでの苦悩もあり「『やっと結果に繋げることができた』という感じでした」と安堵の表情で話す蓑田さんが印象的でした。
今後の目標
華々しく優勝を飾るも、その後は、ケガの影響もあり練習ができない期間や、記録が伸びないなど、納得がいかない日々が続きました。そんな時は、少しバーベルから離れてみたり、気分転換に他の競技をしてみたりと、さまざまな方法を試したそうです。そして徐々に調子を取り戻し、今年2月下旬に行われた「全日本ジュニアオリンピックカップ」では、膝の痛みを抱えながらも自己ベストを更新して4位。「20歳までの中・高・大学生が競う大会は初めてで、4位という結果でしたが、楽しんでできたことが嬉しかった。次の大会に繋がるような練習をしていきたいです」と振り返ります。そして3月26日に開催された「全国高等学校ウエイトリフティング競技選抜大会(全国選抜)」ではスナッチ・クリーン&ジャークでともに1位となり、見事優勝を果たしました。
今後の目標を聞くと「高校生で狙えるタイトルをすべて獲れるように頑張ること!」と迷わず答えてくれました。「オリンピックは憧れです。まずは全日本選手権でトップになりたい。インターハイで優勝したと言っても、大学生や社会人の人たちと比べると記録的にはまだまだです」と向上心の高さをのぞかせる蓑田さんは「誰にも負けない心で一生懸命やっています」と話します。高校から競技を始めましたが「顧問は重量挙げの基本を常に教えてくれます。でも、基本だけでは記録を伸ばすことはできないので、毎日試行錯誤しています」と自分自身とただひたすらに向き合い、日々進化を遂げています。高校最後の年は「この1年の大会結果で将来が決まると言っても過言ではないので、毎日練習できる喜びをかみしめながら成長していきたい」と強く決意を語ってくれました。
ウエイトリフティングの魅力を「奥が深いというか、ゴールがないところ」とも語る蓑田さん。理想の競技に巡り合い、限りない努力と天賦の才能で、これからも天のように無限の可能性を広げていくことでしょう。
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広報まつど2024年4月15日号 埼玉栄高等学校・蓑田 天さん
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