広報まつど2022年1月15日号 春風亭昇々さん
更新日:2022年1月15日
最大限の努力で演じる落語
落語家 春風亭昇々さん
「1人で座布団に座り、自分の言葉一つで世界観を仕上げていく落語って、とてもかっこいいって今でも思っています」と紋付き袴はかまに身を包み話してくれたのは、テレビ番組『笑点』の司会・春風亭昇太さんの一番弟子で、松戸市出身の春風亭昇々さん。昨年、真打に昇進しました。
落語家を目指したきっかけは、大学4年生になり就職活動を始めようとしたときに、まくらも現代的で古典落語も面白く、そして新作落語を演じる昇太師匠の存在を知ったから。新作落語とは、その時々の旬のワードやトピックを盛り込んだ、古典落語より分かりやすい噺で作者のセンスが問われる落語です。もともと大学で落語研究会に所属し、新作落語を演じたいと思っていた昇々さんは、自分には就職活動が向いていないと思ったこともあり、昇太師匠への弟子入りを決意します。
そうと決めると、昇々さんは新宿の末廣亭の前で昇太さんを「出待ち」。緊張しながら履歴書を差し出して弟子入りを願い出たところ、1カ月後にはあっさり弟子入りが決まったと言います。しかし実はそれまで入門が許されたのは昇々さんが初めてで、一番弟子となりました。師匠はそれまで弟子を取っておらず、周囲からの勧めもあり弟子を取る決断をした絶妙のタイミングで昇々さんがそこに飛び込んだ結果になりました。「たまたまタイミングが良くて」と昇々さんは笑顔を見せます。
落語のシンプルで美しいところに魅力を感じると語る昇々さん。「刀や着物など、日本特有の物は無駄をそぎ落とした美しさがありますが、落語もその一つです。言葉一つで限りない世界観を表現できる。そこが面白い」と簡潔な中に自らの力でいかようにも生み出せる可能性に想いを馳せる一方、「シンプルな分、粗が見えやすい。自分の芸を日々精進しないと」と身を引き締めます。
前座時代は自分の師匠以外に、他の師匠や先輩方のお世話もあり、「羽織の畳み方、お茶の出し方など楽屋では叱られっぱなしで、苦労しました」と笑う昇々さん。それでも「落語家以外の仕事をしている自分が考えられなかった」と、一度も辞めたいと思ったことはなかったそうです。
「周りの評価ばかりを気にしていたら駄目です。落語に対して自分の中で最大限の努力をすることで、お客さんを笑いに引き込むことができると思っています」。きっちり丁寧に、一生懸命稽古することが何より大事だと力強く語ります。今では「昇々落語」という独自のジャンルを確立し、新作落語の代表者の1人となっている昇々さんですが、「まだまだ自分の理想となる落語家には程遠いです。自由自在に落語を扱えるようになりたいですね」と落語家としての高みを目指します。江戸と令和をつなぐ落語家として、昇々さんの切り開く落語界の未来はどのようなものになるのか、活躍から目が離せません。
浅草演芸ホールで落語を披露する昇々さん