令和4年度教育施策方針
更新日:2022年2月24日
令和4年2月24日、松戸市議会3月定例会本会議で教育長が発表した教育施策方針です。
世相の概観
コロナ禍に必死の思いで対応している間に令和も4年度を迎える段になりました。その間、私たちは改めて足下を見る機会を得ました。社会の動きは速さを増し、より複雑化しています。デジタル化が先導する情報化社会、より加速するグローバル化、悩み始めた民主主義、戦略がまとまらない環境問題や人口問題等による予測不能な新しい社会をブーカ(VUCA)と表現する考え方があります。おそらくニューノーマルはそのような社会を指すことになるのかもしれません。
マネジメント
不確かな未来という状況下で、ウーダ(OODA)ループ等の新しいマネジメントの動きがあります。短期的な動きを丁寧に把握し、長期的な視点に立った情報と状況の分析を進め、PDCAのCやAを予め施策に組み込むなどの工夫に努力が不可欠になり、まさに「走りながら考える」必要性が高まってくるなどマネジメントにも大きな変化が迫られています。
教育分野
さて、教育の分野では、OECDがこのような状況をかなり以前から見据え、Education 2030を発信していました。日本の文部科学省は、その流れを大きな柱に学習指導要領の改訂を進め、平成29年3月31日に公示された現在の学習指導要領では、その考え方に同期したと言えます。
続いて発信された「令和の日本型学校教育」等も参考にして、松戸市教育委員会としては、昨年度末に「学びの松戸モデル for 2030」を発信したわけです。
組織改編
今年度から、そのプラン通りにいくつかの施策が動き始めていますが、来年度はいよいよ本格的に、総合的に各施策が機能し始める年となりますので、私たちはそこに叡智と努力を傾注しなければならないと決意しています。
その大きな鍵となる組織改編については、数年前から教育の重要課題の対策に資するために様々なプランを検討してきました。今年度は二つの課を移管しましたが、来年度はいよいよ大きな改編の年となります。例えば、生涯学習部では情報や実態の分析をもとにして教育施策を研究するための教育政策研究課、文化面の強化として文化財保存活用課の設置、学校教育部では従来の指導課、保健体育課と教育研究所を整理統合して、学習指導課と児童生徒課としました。それぞれの効果を検証しながら、さらに改善していきます。
重点
コロナ禍は、皮肉的ですが、私たちに「思考」と「選択」をする時間と場を与えてくれました。教育の役割、本来、成すべきことを私たちに問いかけてくれました。来年度の教育行政の役割の大部分は環境整備と考えています。その中でも最近の状況から特に次の3点に重点を置くべきと考えています。
一つは、学校教育における「基盤の再考」です。日本の学校教育活動のベースとなっている学級集団、あるいは学習方法からの自由度を高めることが必要になってきています。例えば、これからの学習に関して多くのキーワードがありますが「個別最適な学び」と「協働的な学び」という対立的なキーワードがあります。これを学級というベースに則って取り組むことには限界があります。学習集団をどの程度フレキシブルに考えられるか、意識の転換を図ることが必要になってきています。
二つ目に幼児期及び青少年期の教育環境の整備が急務です。全ての子どもたちは、私たちの未来社会を創る貴重な人材です。特に松戸市に不足している青少年の居場所を含めた地域の学びの拠点及びスポーツ環境の整備は重要です。 さらに、幼児の教育に多くのエネルギーを割く必要性が高まってきていることは喫緊の課題として捉えるべきと考えます。これまでの「与える」幼児教育から「引き出す」幼児教育への変化も含めて、量から質への転換を迫られていると思います。
幼児から青少年のみならず、全ての世代に必要なものが、三つ目の図書環境の整備です。いよいよ本腰を入れる時が来ました。様々な職域での人材育成も社会全体で大きな課題になっており、より高度な文化を目指して進んでいく中で、相応しい人材を育成することが肝要です。そのためにも、図書館環境は、文化の基盤となるシステムとして、絶対に欠かすことのできないものと考えます。分館、地域館そして本館を市の各地域の特性を踏まえ、地域共生の視点も加えて、整備を進めていきたいと考えています。
新年度の施策
それでは、学びの松戸モデルにおける3つの視点に沿って、新年度の施策についてお話をいたします。
何を学ぶ
歴史・文化・伝統・芸術を学ぶ
まず、「何を学ぶ」という視点です。
本市には、数多くの貴重な歴史文化資源が残されており、これらの価値を伝え、その魅力を活かした街づくりを推進するため、令和2年度に「松戸市文化財保存活用地域計画」の作成に取り掛かりました。
また、博物館として新たな役割を果たしていくための、「博物館リニューアル基本構想・基本計画」の作成も進めています。
来年度の両計画の策定により、地域の歴史文化資源を市民に広く周知するとともに、市民一人一人が本市の歴史文化に気づき、興味・関心を高め、次代へ継承していくことを目指します。
昨年の大河ドラマでも注目を浴びた戸定邸に隣接する戸定歴史館は、開館から30年が過ぎ、老朽化が進んでいるため、計画的な整備によって施設の維持を図ります。そのことにより、多世代が歴史に興味を持ち、学ぶことができるようにします。
博物館では、「こども歴史体験ゾーン」の整備を意識した「第2回こどもミュージアム」を開催し、だれもが楽しく松戸の歴史や生活文化に触れられるようにします。
地域博物館として学校教育との連携を図った「博物館アワード」は、来年度7回目を迎え、近隣市の参加校も増えています。
この他にも、博物館を会場とした「松戸のたからもの 松戸市の美術コレクション」を開催します。優れた美術作品を通じて、ふるさと「松戸」への愛着を深めていただくために、昨年、寄贈をいただいた、板倉鼎(かなえ)・須美子の作品や、千葉大学工学部とその前身の東京高等工芸学校の教授陣と卒業生の作品等を紹介します。
千駄堀地区に関しては、博物館と隣接する21世紀の森と広場、森のホール21と連携した「千駄堀地区3館連携文化交流事業」を引き続き推進します。
また、今年度スタートし、好評を得た「まつど音楽フェスティバル」は、さらにステップアップしたイベントを目指し、音楽の裾野を広げ、「音楽のまち松戸」を市内外へ広く発信します。
市民の主体性を育む
興味・関心に応じた、主体的な学びの機会の一つとして、市内在住・在勤作家の作品を個展形式で紹介する「松戸の作家の個展」を引き続き森のホール21で開催します。
また、「松戸の作家の紹介講座」では、本市出身の岩澤哲野氏が演出した朗読劇や出品作家の技法を学べるワークショップなど、だれもが楽しく学べるイベントを多数開催します。
その他にも、市民会館では、来年度も天文教室を開催します。JAXA(ジャクサ)で、新たな宇宙飛行士の募集を始めただけでなく、一般の方にも宇宙に行く道が開かれるなど、宇宙がより身近な存在となっていく時代に、山崎直子名誉館長の体験談とともに、子どもたちに宇宙や科学の楽しさを知る機会を提供し、興味関心を高めます。
文化ホールでは、多様な市民の学びの拠点となることを目指し、生涯学習サロンの拡大や、ギャラリーも含めたオンライン環境の充実を図ることで、市民の主体的な学びや文化活動を支え、豊かな教養を育んでいきます。
青少年会館では、施設の自由な利用を拡大することにより、青少年の多様な交流や体験の場を拡大し子どもたちの居場所として充実を図ります。
家庭教育力向上事業では、小学校の家庭教育学級の実施とともに、松戸市の文化や歴史を学び、学校を超えた交流を促すために、MCR学級としてオンライン講座の実施や博物館、戸定歴史館の見学を行います。
子どもたちが「生きる力」を身に付けるためには、子どもたちの成長と学びを支える親の学びやつながり、幼児教育と小学校教育の学びの接続は重要です。そのために子ども部を始めとする庁内はもとより、関係機関と相互の連携を図ります。
スポーツを楽しめる機会をつくる
「市民だれもがスポーツに親しめるまちづくり」をコンセプトとした「松戸市スポーツ推進計画」の策定に向けた準備を進める中で、運動公園武道館の耐震改修工事やバリアフリー化をします。人にやさしく安心・安全な環境整備とともにパラスポーツの周知や障害者アスリートの支援も行います。
東京オリンピック・パラリンピックを機にニュースポーツやアーバンスポーツのニーズが広がってきました。多くの市民が幅広くスポーツを気軽に楽しむ機会の充実を図る一環として、来年度は、スケートボード施設を整備します。
子どもたちに知徳体バランスの取れた「生きる力」を育む
学校では、児童生徒の育成すべき資質・能力を見極め、主体的で対話的な学習活動をとおし、生涯にわたって必要な力を身に付けるべく「深い学び」を実現していきます。
今年度は、SDGsに対する意識啓発を図ってきました。来年度は、教師が児童生徒の取り組みを情報交換する研修会を設定します。
すべての児童生徒が生き生きと生活できるよう、これまで検討を重ねてまいりました「標準服(制服)のあり方」を基に、来年度は、学校ごとの実情に合わせた検討を進め、多様性を尊重する学習活動につなげていきます。
また、ICT活用については、ICT支援員を継続して派遣するとともに、「一人一台タブレットを効果的にどのように役立てるのか」を意識した取り組みを推進すると同時に、東北大学の先生方にご協力を頂きながら活用のメリットなどの検証を行っていきます。
今年度の全国学力・学習状況調査において、中学校の国語では全国平均を上回る正答率となりました。この結果は、小学校から継続して積み重ねている言語活用科日本語分野での学びの成果と捉えています。英語分野においては、多感覚を活用しながら文字と音の関係を学ぶ「ジョリーフォニックス」の対象学年を中学校への接続を見据えて広げていきます。
どこで学ぶ
学びたいときに学べる環境をつくる
次に、「どこで学ぶ」という視点です。
本市の文化拠点を担っている図書館本館や市民会館では、老朽化が問題となっており、建て替えについては、来年度に「松戸市文化複合施設基本計画」を策定する中で、美術展示設備を含め、だれもが学びやすい環境整備を検討します。
また、文化会館、市民劇場のハード面につきましては、緊急性があるものから計画的に修繕を実施します。
図書館では、昨年12月に、本市初の「地域館」をひがまつテラス内にオープンしました。2階には、青少年プラザがあることから中高生も多く訪れており、ファミリー層も含め、幅広い層にご利用いただいています。
東松戸地域館では全ての蔵書にICタグを装備したことで、貸し出しのセルフ化や非接触化が可能となりました。
市内の各図書館においても、みなさまの需要に応えられるよう図書館資料を充実させていきます。
子どもたちのためのよりよい教育システムを構築
小中学校では、教育課程のマネジメントの工夫を促すとともに、教育活動の基盤となっていた指導体制の見直しに取り組んでいきます。これまでの「学級をベースとする学習集団」から「教科等の特性や児童生徒の興味関心に応じた学習集団」へ編成することや、集団に応じてどの教員が指導を行うかを決めるなど、より質の高い学びにつなげられるものと考えます。
そこで、固定の学級担任を設けず、学年職員全員で児童生徒を育む「学年担任制」の導入に向け、研究を進めるとともに、小学校においては教職員それぞれの専門性を発揮し、学習指導や生徒指導の充実を目指す「教科担任制」を進めていきます。
これらの実現に向けた支援として、本市独自の退職校長によるサポートや、民間企業と連携を図る研修等も実施しながら特に若手教職員を育成していきます。
児童生徒への支援といたしましては、外国からの編入者の増加に対し、日本語支援員等を派遣してきましたが、新たに、日本語がわからない児童生徒を対象とした「にほんごルーム」を複数の学校に開設し、集中して日本語を学べる環境を構築していきます。
また、法施行に先駆けて、医療的ケアが必要な児童生徒に対しては、100%の看護師派遣と指導医による学校巡回を実施してきました。引き続き、きめ細やかに対応していきます。
特別支援学級は、来年度、小学校で9校、中学校で4校に開設する予定です。これにより、小学校においては設置率100%、中学校では85%となります。今後も、人的支援や障害種に応じた特別支援学級の設置の拡大に努めていきます。
市内各地域の児童生徒数や学校規模等の状況は、近年の宅地・マンション開発、少子高齢化などにより変化が生じています。安全な通学路の確保や教室数の不足等も踏まえ、通常学級の学区の見直しに向けた検討を進めていきます。
教職員の働き方改革に向けては、現在、教職員が担っている学校給食費の徴収事務や未納対応などの業務負担軽減や会計の公正性・透明性を確保するため、来年度から、給食費を公会計化します。
部活動では、学校の工夫により地域部活動としての取り組みが進んでいるところですが、新たな部活動の形を検討するため、視察を含めた調査を行い、地域団体や企業等との連携を開始しました。松戸市カヌー協会と連携し、市内小学校を対象とした体験教室を行い部活動につなげる試みを実施していきます。
子どもたちのための安心・安全・快適な教育環境を確保
児童生徒が安心で安全な生活を送れるようこれまでの取り組みを生かし、心のケアを含め、状況に応じた感染拡大防止対策を実施していきます。
また、通学路の安全確保に向けて、関係機関との連携を強化するとともに、危険予知トレーニングをはじめとした安全指導の充実を図っていきます。
いじめ・不登校の対応は欠かせません。今年度より導入したWEBQUは、詳細な分析結果をいち早く把握でき、未然防止・早期発見の対応に活かせると実感しております。加えて、今後、いじめ事案の深刻化の未然防止のため、AIの活用を視野に入れていきたいと考えています。
不登校児童生徒への支援につきましては、居場所の充実と一人一人の課題に寄り添った支援を行えるよう、引き続き、適応指導教室やほっとステーションを運営していきます。
学校施設においては、令和3年12月に策定しました「松戸市学校施設長寿命化・再整備計画(第1期)」に基づき、長寿命化改修工事に向けた各種仕様等を検討していきます。あわせて老朽化にともない、小中学校体育館のバスケットゴールの点検や修繕、快適なトイレ環境などの整備をしていきます。
魅力ある市立高校づくり
市立高校改革は、3年目を終えるにあたって評価を行っているところです。明らかになった成果及び課題を今後の改革の継続に活かしていきます。また、校内のWi-Fi環境の整備を行い、BYODによるICTを活用した学習活動を推進しながら、今後のタブレット整備に向けた検討を進めていきます。
どのように支える
多様な主体の連携・協働で学びを支える
最後に「どのように支える」という視点です。
全国でも珍しい、松戸市版スクールソーシャルワーク事業は、開始から5年が経過し、相談件数は年間7千件に達しています。福祉や医療を必要とするケースにも、一つ一つ丁寧に対応しています。
子どもたちの居場所である青少年会館では、来館した子どもたちの見守りを通じて、子どもたちが抱える様々な課題に対して、NPOなどと連携した支援に取り組みます。
地域連携といたしましては、平成27年度より「まちっこプロジェクト」として、松戸市医師会の皆様に子どもたちの健康教育の一環として、授業を小中学校で実施していただいています。引き続き、連携を図っていきます。
また、これまで独自に進めてきたコミュニティ・スクールの取り組みに加え、本市で初となる、文部科学省が推奨する形態でのコミュニティ・スクールを来年度小金小学校で開始します。今後も、地域と学校が一体となって子どもたちを育むことができるよう、それぞれの地域の実状に応じた「地域とともにある学校づくり」を進めていきます。
学びたい市民の自主的な学びを支える
学びたい市民を支えるため、戸定歴史館や博物館におけるデジタルミュージアムの公開や、文化ホールや青少年会館におけるWi-Fi設備の設置等、ICTの活用により学びの環境をさらに充実させていきます。
夜間中学「第一中学校みらい分校」では、開校初年度に1学年として入学した生徒が、3年かけて学び直し、今年度末に卒業を迎えます。見えてきた課題の一つとして、外国籍生徒の学習言語としての日本語習得が挙げられます。
今後、生活、学習、ビジネス等の様々な理由により、日本語教育の必要性は、ますます高まります。
そのため、市全体の総合的な体制づくりを関係機関・団体と連携しながら進めていくことが必要です。来年度からは、そのための研究に着手していきます。
結び
縷々述べて参りました。コロナ禍で見えてきたものがもう一つあります。「人と人とのつながりの大切さ」です。そして、それを支える「ことばの大切さ」です。
今、ある意味、混乱の時に、そしてこれからの正解のない時代に生きる私たちは、ことばが人と人とのつながりの中で根本となる要素であることをしっかりと認識し、その教育に携わる必要があります。だからこそ、「ことばを育み、人がつながる松戸の教育」なのです。
多様化が進み、課題は複雑化しています。従って、施策も多様化せざるを得ません。
現実を真正面から分析し、未来社会のために長期的な視野で何をすべきか、という議論をすべきです。私たちの責務は「教育」であり、目指さなければならないことは「未来の社会づくり」の礎であることを志にして、前に進みたいと思います。
令和4年度もよろしくお願いします。
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