「"好き"な気持ちを糧に、BMXフラットランドを広めたい」BMXプロライダー・佐々木元選手スペシャルインタビュー
更新日:2022年6月15日
4月22日(金曜)から24日(日曜)、世界最高峰のアクションスポーツ競技会「X Games Chiba 2022 Presented by Yogibo」が千葉市のZOZOマリンスタジアムで開催されました。22日(金曜)に行われた自転車競技「BMX フラットランド」では、松戸市在住の佐々木元選手が見事に銅メダルを獲得しました。
企業の支援を受けながらプロライダーとして長年活躍し、後輩にも影響を与え続ける佐々木元選手にインタビューしました。
※インタビューは2022年5月10日に行いました。
X Games Chiba 2022 Presented by Yogibo公式サイト(外部リンク)
時代を読んで常に新しい技に挑戦~X Games Chiba 2022を終えて~
Jason Halayko / ESPN Images
―X Games銅メダル獲得おめでとうございます。大会を振り返って、どのような感想をお持ちですか
今回は大会までの4カ月間、もうひたすら練習しました。正直言うと、BMXフラットランドは技の数が非常に多くて、大会のために練習するというのはあまり好きではないんです。何万回練習してようやく1回完成して、そこから大会までにその確率を1%から6割から8割くらいにまで上げる作業はとても大変で。確率を8割に上げても失敗することもあるし、失敗するとその大会に向けて練習した時間がほとんど無駄になってしまうような気がして嫌だったんです。だから、今まで大会に向けて練習した期間はそんなに長くなくて、12年前の「Circle of Balance」でも1カ月半、2019年の世界大会では1カ月でした。
そのくらいの練習期間が最長だった中で、今回は4カ月みっちり練習しました。それは、地元・千葉での開催で、応援してくださる方がものすごく増えたからです。さらに、もうすぐ4歳になる上の息子が自分の仕事をちょっと理解し始めたので、かっこいい姿を見せたいという気持ちもありました(笑)。教え子もできて、頑張れる要素がちょうど重なって、気合いの入り方は今までで1番大きかったです。
―銅メダルという素晴らしい成績でしたが、良かった点について教えてください
スポーツ選手にとっては大会の結果が全てだと思うんですが、順位は時の運で変わるので、それに向けて自分が何をしたかとか、その結果で周りの人がどう動いてくれたかということが自分にとっては重要です。今回3位だったんですが、来てくれた方がみんな「本当に頑張ったね」とか「一番かっこ良かったよ」と言ってくれたことが全てだと思っています。その点については、自分のパフォーマンスやそれに向けた練習というのは、100点を超える結果だったかなと思います。
普段は映像でしか競技をご覧いただけていないのですが、今回は千葉開催ということで実際に見てもらうことができて、「生で見ると全然違うね」とか「こんな重い自転車を振り回してあんなスピードでよく技ができるね」という言葉をいただき、フラットランドがスポーツであるということがすごく認められた瞬間だったと思います。これからもさらに頑張って結果を残すことで、業界が盛り上がってくれたらいいなと思います。
Naoki Gaman / ESPN Images
―日本でフラットランドを生で見る機会は少ないのでしょうか
広島で世界大会を3年続けて行う予定だったんですが、コロナ禍で2年で中止になり、3年目がずっとできていません。その前の世界大会は京都で、関東で開催することはあまりなかったんです。2019年に松戸市でジャパンカップがありましたが、やっぱり世界大会となると話が違うので、今回それを皆さんに生で見ていただくことができて、本当に良かったなと思います。
―競技を続けるうえで、最も苦しかったことは何ですか。また、それを乗り越えることができた支えになったものはありますか
競技を生でご覧いただいた方は、あれを毎日4、5時間練習するのは尋常じゃない運動量だと思ってくださると思います。最も苦しい時というより、一生つらいです(笑)。今回は特にみんなが見に来てくれるから、生ぬるい演技は見せられないと本当に体力の限界を超えて、気持ちだけで練習をつなぎ止めた部分がありました。毎日練習が終わったらすぐ全身を冷やしたり、疲れてもう起きられない中で無理して練習したり、ギリギリで乗り越えてきたんです。
大会が終わってすぐ同じメニューをやろうとしたんですけど、全然無理で。よっぽどあの時は精神力が強かったんだなと思います。今日も、大会前に3カ月以上毎日30回やっていた練習を同じようにやろうと思ったんですが、全然できなくて、25回で諦めました。みんなが応援してくれる気持ちに応えたいという気持ちの強さが、今回の最大のパフォーマンスにつながったのかなと思います。
―大会で披露する技の組み合わせはどのタイミングで決めるんですか
大会までの期間と自分の仕上がりの状態、現地の路面コンディションを考えて、どのくらい技の成功率が下がるかを計算します。そして、この相手だったら、自分の何割のパフォーマンスで何割勝てるという設定をして、そこから逆算して、これくらいの技だったら勝てる、最後にこれを入れたら優勝、これをミスしたら2位か3位、という逆算をして決めます。
でもX GAMESは公式戦とは全く違うルールで、何回ミスしてもいいからすごい技を1本決めてその得点を競う「ベストトリック」というルールでした。だから、最初からジャンプ技で1番すごいのを入れて、次にバランス技で1番難しいのを入れて、最後にスピンで1番難しい技を入れようと決めていました。公式戦とは練習が全く別で、本番までに成功率をどのくらいまで上げられるかということを課題に取り組みました。
―新技のアイデアはどこから生まれるんですか
技の作り方には2通りあって、全く新しい何かを生み出すパターンか、今あるものを進化させるかのどちらかです。そして、その時自分が必要な技と、時代の流れを呼んだ技が必要です。X GAMESで今回初めてベストトリックが採用されましたが、ここ5年くらいは、3分間ミスのない演技をするというのが主流でした。それが、オリンピックのスケートボードでベストトリックが採用されたので、BMXでも今後増えていくだろうと思っています。
そうすると、今自分に必要なのは、全く新しい技を作り出すことではなく、みんながやっている技を一段高いレベルでできるようになることです。そのためには、人間としての身体能力を超越しないと到底世界一にはなれないので、もう37歳ですが、無理だと思わずあらゆる練習に挑戦しようと思っています。
鎌ケ谷巧業の室内練習場で技を繰り出す佐々木選手
―世界一を取るために必要なことは何ですか
2010年に世界一を取ってから、国内外を含めて15連勝ぐらいしたんですけど、そこからガクッと勝てなくなった時期がありました。ずっと同じ技をやっていると飽きられてしまうんです。もっと応援してもらうには、成功率は少し下がるけど新しい技を取り入れることが必要で、自分に試練を課して常に成長していかなければいけないと思います。
ただ、次のステップに行くのはとても大変です。スピン技では耐える筋力、ジャンプ技ではバネの筋力というように、技によって必要な筋力が違い、練習方法も異なります。技に合わせて体がすぐ変わるので、練習量がどんどん増えていくんです。
X GAMESの状態をキープするとなると、最低でも1日5時間くらい練習が必要で、新しい技を覚えるにはさらに3時間ぐらい必要になります。技の成功率を捨てるか、大会出場を捨てるかしないと次のステップに行けないんです。今回、金メダルを取ったら1回大会に出るのを止めると周りには言っていたんですけど、3位という結果だったので、この状態をキープして何回か大会に勝ちたいなという気持ちに変わりました。
―練習場である21世紀の森と広場(市立博物館前)は、「BMXの聖地」と言われています。いつ頃からそのように呼ばれているんですか
30年くらい歴史があるんじゃないでしょうか。森で囲まれているので風の影響をあまり受けないんです。路面一つとっても、ちょっとガタガタしているところだと練習にならないんですが、かなりパーフェクトな路面なので、できなければ自分のせいだからもうちょっと頑張ろうかなと思います。昔からプロの先輩がたくさんいました。
また、あそこは道路からよく見えるので、「昔からやっているよね」と散歩中の通りすがりの方などによく声を掛けていただきます。それに応えたり技を見せたりして、練習する雰囲気もとてもいいと思います。
松戸市立博物館前の広場で練習する佐々木選手
―指導者としても活動されていますが、フラットランドの最も伝えたい魅力とは何でしょうか
運動神経も必要ですが、何よりも練習時間が大切で、練習した分だけ結果が出るという点が自分にとっての最大の魅力です。もともとテニスをやっていたんですが、テニスは2人いないとできないのに対し、BMXは自分と向き合えます。練習もやみくもに行っているわけではなくて、練習前は車の中で今日は何やろうかなとか、昨日何10回できたから今日は何11回を目指そうとか、365日自分にノルマを課しているので、生きていて飽きないですね。息子にはもう少し楽なスポーツをやってほしいと思いますが(笑)。
17歳からこの競技を始めてもう20年続けていますが、大きい大会があっても休むのは今回の3日間ぐらいです。自転車に乗りたくない時がないので、心から相性がいいのかなと思っています。自分は自転車を始めた瞬間に大学には行かないと決めて、高校を出た瞬間にプロになると決めて、プロになってすぐ海外に行って、そこから自転車だけで食べていくと決めてバイトをやめてスポンサー探しをしました。常に保険をかけない人生を送っています(笑)。一流になるためには、自分の好きなことをとことんやることが必要だということは、講演会などでも常に言っています。
―今後、どうしたらフラットランドがもっと広まると思いますか
オリンピックになれば100%広まると思います。フラットランドは見てすぐにできるものではなくて、2、3周できるようになるだけで2、3年はかかります。自分は自転車歴が20年ですが、X GAMESで2位だった選手は34年と、年齢が高い人が活躍します。。
フラットランドは女子選手が少ないのですぐにオリンピック種目になるのは難しいですが、ロサンゼルスオリンピックは可能性があると思っています。BMXはどのアクションスポーツの大会にも入っていて、そのうちフラットランドだけがオリンピック種目になっていないから、いつなってもおかしくないと思います。その時に、アイコン的な選手がいることでブームに火がつくと思っているので、そこを信じてやっています。
今はアクションスポーツブームの影響で、ペダルがなく地面を蹴って走るランバイクが子どもに人気です。子どもが初めて乗る自転車がBMXになって、オリンピックでBMXの試合が地上波で流れたりしたら、もっと広まるんじゃないかなと思います。
―次の目標を教えていただけますか
いつかオリンピック種目になるときに向けてずっと開発している技があるのですが、それが果てしなく遠い道のりで(笑)。どこから手をつけようかなと悩みますが、毎日進歩していれば、いつかたどり着けると思っています。5月5日で37歳になって、続けられてもあと10年くらいかな、という中で、今できることを一歩一歩やるだけです。
引退した後、死んだ後も歴史に残るような選手になりたいという目標があります。「誰よりもあの人が上手かったね」って100年後でも言われるくらいの選手になることと、世界大会で1位を取ることとは、練習が全く違います。全ての能力を極めるために日々練習しています。
次の世代を育てる活動も始めています。プロのスポーツ選手は、メディアに出て誰かに希望を与えることができて初めて収入を得ることができます。BMXというマイナーな競技では、より努力しないと人に希望なんて与えられません。後輩たちには、「もっと頑張っているやつは世の中にたくさんいるぞ」って怒ることが多いですが、そこまで理解して戦える人を育てることができれば、もう少し業界が大きくなるのかなと思います。
早く引退をとも思っているんですが、自分は先輩を超えたかったタイプなので、引退するまでに自分を超える教え子が出てきてほしいなと思います。
―市民の方に向けてメッセージをお願いします
日本で取り上げられるスポーツは野球やサッカーなどが多く、自分たちは一見遊んでいるように思われてしまうんですが、アクションスポーツをやっている人は独学で学んでトップ選手になるような人がたくさんいます。既成概念にとらわれずに応援していただけるとうれしいです。
「FISE World Series 2022」では愛弟子・莊司ゆう選手と2位・3位に!
2022年5月25日(水曜)から29日(日曜)にフランス・モンペリエで行われたアーバンスポーツの世界最高峰の大会「FISE World Series 2022」では、BMXフラットランドの表彰台を日本人が独占。佐々木選手の愛弟子で、同じく松戸市在住の莊司ゆう選手が、世界大会初出場ながら2位に輝き、自身も3位に。松戸市で育ったBMXライダーの系譜は、確実に受け継がれています。
FISE World Series 2022公式サイト(外部リンク・日本語未対応)
佐々木元選手の動画(FISE World Series 2022公式サイト)
莊司ゆう選手の動画(FISE World Series 2022公式サイト)
X GAMES Chiba 2022の開催前の、佐々木選手と莊司選手のインタビュー記事を掲載しています。
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佐々木元選手 プロフィール
1985年生まれ。松戸市在住。鎌ケ谷巧業株式会社所属。
2010・2011年にBMX界で最も権威のあるアワード“NORA CUP”をアジア人で初めて2年連続で受賞した、世界を代表するBMXプロライダー。
2019年ワールドカップ第3戦優勝、2021年世界選手権準優勝。
関連リンク
ワールドカップで初優勝!松戸市出身のBMXプロライダー佐々木元選手
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